『田園の詩』NO.51 「名水ブーム」 (1996.8.6)


 牛乳やジュース、清涼飲料水などに肩を並べて、≪名水≫といわれるものが店頭で売ら
れるようになってから、もうどのくらい経ったでしょうか。

 長い間、私は京都に住んでいましたが、夏になると水道の水が急にまずくなりました。
水源の琵琶湖の水質が悪くなり、飲料水としての品質保持のため、いろんな処理をして
いるのが原因のようでした。

 水事情は、都会ではどこも似たり寄ったりで、「おいしい水を飲みたい」という要望にこ
たえて、≪水そのもの≫が商品として売り出されたのでした。それ以来、全国の≪名水≫
が登場し、健康志向とも相まって、大人気となっているようです。

 この≪名水ブーム≫は都会だけの現象ではありません。田舎でも同じように大変な
ブームとなっています。ただ都会と違うことは、田舎では≪名水≫を買うのではなく直接
汲みに行くという点です。

 大分県は、わが町の隣の別府をはじめとして、温泉には大変恵まれた所ですが、良質
の湧水も随所にあります。県は、その中から特に代表的な所を選定して、≪豊の国名水≫
に指定しました。


        
       ここは、わが町のではなく、隣村の隠れた名水です。汲みに来る人も少ないけど
         絶品の水です。      (08.10.18写)



 そのひとつが我が町にもあります。日量7千トンにものぼる精冷な湧水は、どんな干天
になっても涸れることはないといわれています。この水を汲みに、近郊近在から車でやって
来る人の絶え間はありません。

 一人当たり、ペットボトルに換算して数10個は汲んで帰り、月に4〜5回は来るそうで
す。店で買えばいくらになるのでしょうか。

 世界の国の一部では、生活用水が足らず、水汲みに苦労しているので、井戸を掘るボラ
ンティアが日本から出掛けたりしています。そんなニュースを聞く時、どの家でも水道が
あり、何の不自由もないはずの日本のこの水汲みの現状には複雑な思いがします。私も、
自由に、そして無料で湧水の恩恵にあずかっている者の一人ではありますが…。

 心から、豊富な水を恵んでくれる日本の自然と国土に感謝せずにはいられません。
                                (住職・筆工)

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